来月から留学生の担当、と課長に言われた(翌日)。教務課の砂原係長が私の机に封筒を(置いて)言った。「柏木さんは(窓口)の人でしょ。受け取ったら(所定の位置)に片づけておいて。履修の(中身)は教務が組む」。
私、三十歳、大学の留学生課の職員。(窓口)に(立って)六年、留学生の書類は全部私の手を(通る)。それでも会議では、(部外者)の席に座らされてきた。
砂原係長は四十代の(後半)で、長く教務を背負ってきた、学内で(尊敬されている)人だ。(前任)の職員が辞めたあと、(交換留学生)の(相談)を一人で引き受けていた。ただ、履修の表は自分の手で組むつもりらしい。
「封筒の整理は(手慣れた)ものだろう」と係長は言った。「でも科目を(判断する)のは、読んだ量で決まる。(浅い)見立てで表を組めば、学期が始まってから学生が(落第する)」。言葉を濁さない人で、その(率直な)ところは私も好きだった。
同僚の二見さんは横で(黙って)(画面)を見ていた。入って(二年目)で、まだ(研修中)の扱いである。(休憩時間)に小さい声で「柏木さんの一覧、私は毎週参考にしてます」と言ってくれた。社交的な人ではないから、わざわざ言いに来たのだと思う。
封筒の中は、交換で(来る)十一人の(履修希望)だった。前の大学で(済んだ)科目と、ここで取りたい講義を本人が手で書いてくる。書体は(多様で)、散らかった欄もある。(実際の)時間割と照らさないと読めない紙だ。
(欄)は四十あるが、履修を組むのに(要る)のは二つだけだと、私は最初に(見当をつけた)。前の大学で済んだ(文学の)必修と、ここで週に出られる授業の数である。窓口の視点でそこに(集中して)、(残り)の欄は読まないことにした。
一つ目の食い違いは(学年)だった。(向こう)は三年目までを(前期課程)と呼び、こちらは学部の二年生を二年生と呼ぶ。(同じ)学生が、紙の上では二つの学年に(並列で)載る。
二つ目は科目の分け方だ。向こうは文学の(講義)を一つに(まとめている)が、こちらでは詩の講読と小説の講読が独立した(単位)になっている。希望の紙は向こうの分け方から始まっていて、学生は(時々)ここで(迷う)。どちらで数えるかで、まだ要る必修の数が変わるのだ。
私は(前提)を(そろえて)数え直した。たとえばハンナという学生は、向こうの紙では文学を(済ませている)。こちらで(読むと)、小説の講読があと一つ残る。同じ(やり方)で十一人を数えると、必修が残る学生は九人、週の時間数が(足りない)学生は三人になった。三人とも火曜の午後が(埋まっていて)、これは偶然の一致ではなかった。
砂原係長の(下書き)は向こうの(分類)を採って、十一人を同じ(時間割)に入れていた。その案だとハンナは火曜に二つの講義が重なり、どちらにも出られない。私はその一行に(印)をつけて、文学部の講師に確かめに行った。
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沼尻先生の研究室は、(本)(でいっぱい)だった。(ざらざらした)紙の古い全集が机に積まれ、窓の外に大学の温室の屋根が見えた。先生は五十代で、(よく響く)(声)で話す。
「詩と小説は、こちらでは別の単位です」と沼尻先生は言った。年によって(出版社)の違う版を(使う)ことはあるが、単位の数は十年変わらない。長年この科目を持ってきた人の、(迷いのない)(返事)だった。
「柏木さんが(数えた)方が、実際の時間割に近いね」と先生は(続けた)。「去年の(春)も、向こうの紙では済んだことになっていた学生が二人、うちの必修を(落とした)。あのとき私は、(本人)の決意が足りないのだと思ってしまった」。
先生は(本棚)から(薄い)(冊子)を取って広げた。詩の講読で使う抜粋の束で、しなやかな紙に印が(頻繁に)入っている。(角度)を変えると、前の年の書き込みが読めた。
「この抜粋を読める学生なら、哲学の講義に入れても(適切に)(追いつきます)。文体の(特徴)がつかめているので」と先生は言った。「でも(小説家)の評伝から入った学生は、同じ範囲を読むのに二倍かかる。学期の(初め)に二つを見分ける方法が、(どこにも)なかった」。
(毎年)絶えず同じ混乱が起きていた(理由)は、そこから推論できた。(問題)は学生の読む力ではなく、紙の上で二つの講義が一つに見えることである。私は(希望)の紙に見分ける欄を一つ足すことを思いつき、その場で(先生)に(提案した)。
表の雛形は、月曜の朝に二見さんが少しだけ手伝ってくれた。二つの数え方を一枚に(収める)(枠)までで、中の数字は(全部)私が入れた。共同で作ったので、(ありきたり)な確認表にはならなかった。
「最重要の欄だけ残してあるんですね」と二見さんは言った。「(行)が左右でそろっているから、学生も読めます」。私は(科目)の数を押し上げも(引き下げ)もせず、そのまま並べた。
私は根拠のある側だけで表を組み直し、(余計な)列は(切り落とした)。済んだ必修、週に出られる授業の数、残りの単位。三列だけの紙だ。(実験室)の実習が入る学生には、曜日の欄を(空けておいた)。
向こうの分類で読んだ場合も、(公平)になるよう同じ(形)で並べた。学生が手元で開く紙だから、こちらの(都合)は入れない。
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学部との調整会議は火曜の夕方。密集した会議室の(雰囲気)は(重く)、何人かは疲れた(顔)をしていた。砂原係長が履修の案を読み上げ、学部の次席が黙った。
学部長は(資料)から目を上げて、一つだけ(聞いた)。「この(学年)は、どちらの数え方ですか」。係長が横を向いて、私の方を(見た)。
私は前もって刷っておいた紙を一枚ずつ(配った)。二つの分類で読んだ(結果)を並列に並べ、どちらでも三人の時間数が足りないこと、係長の案だとハンナの火曜が重なることを(順に)説明した。(不安そうに)言葉を(探さず)に(話せた)のは、先生の冊子を自分で見ていたからだ。
学部長は紙を指で(たどって)から言った。「ではこちらの分類で合意しましょう。この表なら学部も計算が一度で済む。どちらの数え方でも(結論)が同じだと(分かる)紙は、初めて見ました」。
砂原係長は、その場で立ち上がって(言った)。「さっきの言葉は(撤回する)。窓口の人でしょ、と言ったのは私の間違いだった。この履修の(表)は、柏木さんが(組んだ)ものです」。判断する(資格)があるのは自分ではない、と彼は続けた。
学部長は一瞬だけ当惑した顔をして、それから私に名刺を差し出した。来期からは履修の相談を(直接)書いてくださいと(言われた)。大変うれしい言葉だったが、私は浮かれなかった。春の混乱から(立ち直る)ための紙を、一枚(作った)だけである。
会議のあと、砂原係長は私の席に来て履修の表を手帳に(写した)。それから、この六年の(相談)の(記録)をどこに置いているかを一から聞いてきた。権限を超えた(頼み)だがと前置きをして。
私は引き継ぎの(紙)を一枚作った。学年はこちらの数え方、(文学)の必修は(詩)と小説で別、週の時間数は(前もって)本人に(確かめる)。三行で足りる。係長は「これを課の指針にする」と言って、課長の机に持っていった。
課長は私を留学生の担当に(任命した)書類を出し直した。肩書に「履修の協議」が(加わった)。来期からの相談は、二見さんと二人で(分けて)手配する。窓口の(辛抱強さ)は数字で残るものだと、課長は(短く)言った。
沼尻先生にも合意した(分類)の紙を送り、文学部の(事務)の壁に一枚(貼った)。この紙があるだけで春の混乱は半分なくなる、と先生は返事に書いていた。
二見さんは沼尻先生の(抜粋)を折りたたんで(鞄)に入れ、昼に読むようになった。(わくわくした)顔で、読んだところを一つずつ私に聞いてくる。(手ごわい)相談に出くわしたら呼んでと言っておいた。
次の月曜、私は(新しい)履修希望の(封筒)を(開いて)、学年の欄から読む。こちらの数え方に直した数字が並んでいる。私はその行に、(週)の時間数を書き足す。