来月から(海外)担当、と課長に言われた翌日、営業三課の尾花さんは私の席の横に書類の(束)を置いて言った。「先に言っておくけど、君は事務の人でしょ。発送の(確認)だけしておいて。条件は僕が出す」。
私、二十七歳、商社の営業事務である。見習い期間が明けてもう四年、受注から(配送)までの(書類)は全部私の手を通る。それでも会議では、(部外者)のような席に座らされてきた。
尾花さんは(営業力)で部門を引っ張ってきた人だ。(威厳のある)話し方をして、幹部への(説得)がうまい。(前任)の担当者が辞職したあと、海外の供給者との(やり取り)を一人で引き受けていた。悪い人ではない。ただ、条件は自分の手で出したいのだ。
「書類は(手慣れた)ものだと思うよ」と尾花さんは言った。「でも先方の監督者と話すのは、(経験)の量で決まる。素人の(見積もり)を出すのは、受け入れられない。世間知らずの数字を(企業)の名前で出せば、こちらの(信頼性)が落ちる」。
(同僚)の三宅さんは、横で黙って自分の(画面)を(見ていた)。入社二年目で、まだ研修中の人の扱いを受けている。あとで(小さい)(声)で「高梨さんの表、私は毎週参考にしてます」と言ってくれた。
先方から届いた紙は、三つの工場の容量と来期の(割当)をまとめたものだった。登録係が手で打ち直したらしく、書体がそろっていない。(参考)にしかならない数字と、そのまま使える数字が(混ざっている)。
必要な(項目)は二つだけだと、私は(最初)に見当をつけた。四十項目のうち、条件に(不可欠)なのは各工場の月の容量と、締め切りまでに発送できる(数量)だけである。どちらも箱の数で書けば、金額は最後に掛け算で出る。
一つ目の(食い違い)は、容量の数え方だった。北の工場は完成品の箱で数え、南の二つは(組立て)前の部品で数えている。同じ(設備)が、紙の上では同等の(能力)を持たないことになる。
二つ目は(分類)だ。先方の会計士は(製品)を六種に(分けて)いるが、現場は四種で呼ぶ。どの分類を(使う)かで、割当に余る分が変わる。提案された条件は、六種の側だけで書かれていた。
私は(前提)をそろえて(算出し直した)。箱で統一すると南の容量は一割七分下がり、部品にそろえると北が締め切りに間に合わない。どちらの(想定)でも、先に出荷する工場が(入れ替わる)。
尾花さんの下書きは六種を採っていて、(南)に多く寄せる条件だった。(考え)をまとめるには、倉庫の(係)に(問いただす)(必要)があった。
*
倉庫の佐久間さんは、私の電話に三分で(答えてくれた)。箱の数は(週ごとに)統一されていて、(部品)の数は(季節)で動く。長年そこを管理してきた人の、(迷いのない)返事だった。
「君が(出した)数の方が、(現場)の実感に近いね」と佐久間さんは(言った)。「去年の(冬)も、南は部品では足りたけど、箱では二週遅れた。あの季節の数字は信頼できない」。
表の雛形は、同じ課の(アナリスト)の村井さんに月曜の朝、(少しだけ)手伝ってもらった。二つの数え方を(一枚)に統合する枠を作るところまでで、(中)の(数字)は全部私が入れた。(協力者)がいると、(作業)は単調にならない。
「(最重要)のところだけ(残してある)ね」と村井さんは言った。「対応する行が左右で(そろっている)から、(先方)も読める」。それだけ言って、彼は自分の(仕事)に戻った。私は数字を(押し上げ)も(引き下げ)もせず、そのまま並べた。
私は十分な(根拠)がある(側)の数字だけで表を組み直した。(余計な)列は(捨てた)。(各工場)の月の容量、週ごとに(発送できる)箱の数、締め切りまでの(合計)。三列だけの紙である。柔軟に動かせる(余地)を、週の欄に(残しておいた)。
公平に見えるように、南に(有利な)想定も同じ形で並べた。どちらの側にも(都合のいい)(評価)を書かなかった。先方の会議室で開く紙だから、こちらの願望は(入れない)。
先方との会議は火曜の(夕方)だった。尾花さんが条件を読み上げ、相手の次席が黙り、それから先方の幹部が(一つだけ)聞いた。「この数は、どの単位で数えていますか」。
部屋が(静かになった)。尾花さんが私の方を見た。私は(手元)の紙を一枚(配って)、箱で統一した(場合)と部品で統一した場合の二つを並べ、どちらでも南の(割当)が先に(埋まる)ことを順に(説明した)。
先方の(幹部)は、紙の上を(指)で(たどって)から言った。「では(箱)で合意しましょう。この(表)の通りなら、当社も(計算)が一度で済みます。どちらの数え方でも結論が同じだと分かる紙を、(初めて)見ました」。
尾花さんは、その場で(立った)まま言った。「さっきの言葉は撤回する。(事務)の人でしょ、と言ったのは僕の(間違い)だった。この(条件)は、高梨さんが出したものです」。(資格)のある(担当)は自分ではない、と彼は続けた。
先方の幹部は、少し驚いた(顔)をして、それから私に(名刺)を一枚差し出した。(発送)の(予定)について、次からは(直接)書いてくださいと言われた。私は浮かれなかった。数え方をそろえただけである。
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会議のあと、尾花さんは私の(席)に(来て)、割当の表を自分の手帳に(写した)。それから、この四年の(受注)の記録をどこに置いているか、(一から)(聞いてきた)。(権限)を超えたことを押しつけるつもりはないがと、彼は前置きをした。
私は引き継ぎの紙を一枚作った。先方の(単位)は箱、(締め切り)は月末の三営業日前、変更の(連絡)は(登録係)を通さず直接。三行で足りる。尾花さんは「これを課全体の指針にする」と言って、部門長の(机)に持っていった。
課長は私を海外担当に(任命した)(書類)を、改めて出し直した。肩書に「条件の(協議)」が加わった。(競争)が激しい(相手)との(交渉)を、来期から二人で分けて手配することになった。(実直な)人の仕事は(数字)で(残る)と、課長は短く言った。
倉庫の佐久間さんにも、(合意した)単位を書いた紙を送った。(管理人)の机にも一枚貼った。箱の数で(読める)紙が倉庫に一枚あるだけで、冬の(危機)は半分なくなる、と佐久間さんは(返事)に書いていた。
三宅さんは、自分の(作品集)のような(分厚い)ファイルを持ってきて、私の(やり方)を一つずつ聞いた。(最初)からやり直すつもりで並べ替えるらしい。(手ごわい)相手に当たったら(呼んで)と言っておいた。
次の月曜、私は供給者からの(文書)を(開いて)、(容量)の欄から(読む)。箱で(数えた)数字が、同じ単位で並んでいる。私はその行に、発送の週を(書き足す)。