拒絶の通知が(届いた)日、(所長)の桐畑さんは私の(席)に寄って言った。「あなたは翻訳をチェックする人でいい。(審査官)への反論は、私が書きます」。
私は三十三歳、国際特許事務所の(弁理士)である。九年、電子の装置の明細書を読んで(暮らしてきた)。それでも(会議)では、原文と訳文を並べる係で、(好奇心)だけが残っていた。
桐畑さんは(断固とした)話し方をする人で、審査官との(交渉)に機転がきく。(偏見)のある人ではない。ただ、反論書は自分の手で書きたいのだ。(決意)というより、習慣だと思う。
「反論は(粘り強さ)の仕事です」と彼は言った。「(ストレスの多い)往復を三回やって、やっと一つ通る。(経験)のない人には、(つらい)経験になるだけです」。
(案件)は、工場の(ロボット)を(つなぐ)ネットワークの(制御)だった。依頼者は中堅の機械会社で、三年前に出願している。拒絶の理由は二つ挙がっていた。
通知の書面は十一頁。(先行する)文献が四件引かれ、どれも(組み合わせれば)容易だと結論づけている。(一見)、反論の余地がない書きぶりで、読む側を(悩ませる)。
必要な確認は二つだと、私は(見当をつけた)。引かれた文献の原語の(意味)と、出願の明細書の記載の範囲である。残りの形式の指摘は(取るに足りない)。
一つ目の食い違いは、文献の訳だった。審査官が引いた第二の文献は(ギリシャ語)に由来する(用語)を(使っていて)、日本語の抄録では「接続の確認」と(訳されている)。
原語を読むと、その語は「(差し込み口)の有無の検出」だった。つながりの確認ではなく、(物理的)な口があるかを見る機能である。二つははっきり異なり、切り離せる。
依頼者の(発明)は、つながりの(維持)を時間の幅で判断する。差し込み口の検出とは、(等しい)仕事をしていない。
二つ目は、第四の文献の(日付)だ。(通知)には出願の二年前の(公開)とあるが、原文の(掲示板)の記録では、公開は出願の三か月後になっている。ブロガーの要約を引いたらしい。
私は四件を並べて、(節目)ごとの日付の(表)を作った。第四の文献は引用の資格がない。残る三件では、(組み合わせ)の(根拠)が足りなくなる。(適時性)の問題である。
明細書の方も詳しく読み直した。時間の(幅)を示す(記載)は、第七段落に一行だけある。審査官はその一行を(見落とした)のではなく、別の語の訳で読んでいた。
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二日目、私は依頼者の会社へ急いで向かった。(開発)の責任者は、二十六年この装置を作っている曾沢さんという人だ。
「三か月後に(公開された)文献で(拒絶される)のは、(あり得る)んですか」と彼は聞いた。「ありません」と私は答えた。「日付を確かめます」。彼は怒りを声に出さず、こぶしを膝の上で(握っていた)。
曾沢さんは実験の(記録)を出してきた。時間の幅をいくつに設定したか、三年分の数字が書いてある。粘り強い記録で、頁が折りたたまれて(大きな塊)のように(膨らんでいた)。
「差し込み口の検出で(やってみた)こともあります」と彼は言った。「あれでは(無意味に)動くだけで、装置が止まるのを示しようがない。(別の)技術です」。
その実験の表を二枚(借りた)。差し込み口の検出では止まりを示せず、時間の幅では(示せる)。効果的な違いが、(最大値)と下限の(両方)で出ている。
「審査官は、我々の装置を見ていないんですね」と曾沢さんは言った。不平を言うというより、(本物)の(疑問)の(声)だった。
「書面しか見ていません」と私は(答えた)。「だから書面で示します」。彼は前かがみになって、(記録簿)を私の膝の上に置いた。
事務所に(戻って)、(三枚の紙)を作った。原語と抄録の訳の(対照)、四件の公開日の表、曾沢さんの実験の二枚である。(ひどい疲れ)で、帰りは駅までぶらぶら歩いた。
三枚目の(下)に、反論の筋を一行だけ書いた。第四の文献を外し、残る三件は差し込み口の検出だと(指摘する)。それだけで(足りる)はずだ。
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三日目の朝、三枚を桐畑さんの机に(置いた)。彼は(眼鏡)を上げ、一枚目を長く見る。
「この第二の文献は、差し込み口の検出なのか」。「原語はそうです。抄録の訳が、(つながり)の(確認)になっています」。彼は小さく(驚き)の声を上げた。
彼は二枚目を取り、日付の列を(指)で(たどった)。「第四の文献は、出願の三か月後か」。「掲示板の記録です。(通知)の日付が二年ずれています」。
三枚目で彼は(手を止めた)。「この実験は誰が出しました」。「開発の曾沢さんです。三年(分)あり、(最新)の分も入っています」。
桐畑さんは(椅子)を引いて座り、三枚を(並べ替えた)。彼は書面を最初から読み直す人で、(沈黙)が長い。言い訳を探すのではなく、筋を組み替えるために(黙って)いた。
「(原語)を読んだのは、あなた一人です」と彼は言った。「私は抄録の訳で読んでいた。あれでは見分けようがない」。
彼は(立ち上がって)窓際まで(歩き)、戻ってきた。事務所の全員が(顔を上げ)、彼の次の言葉を待っている。
「翻訳をチェックする人でいい、と言いました」。彼は(こちらを向いて)、(人前で)はっきり言った。「さっきの(言葉)は(撤回する)。この区別は、原語を読んだ人間しか出せない」。
「反論書は、あなたが書いてください。私は横に座って(直す)。(依頼者)への(説明)も、あなたが引き受ける方が通ります」。(果断な)(決め方)で、彼は一度も譲歩しなかった人である。
その日から、起草は私の机に移った。桐畑さんは毎朝十分、言い方を(直す)。「(断定)が強い」「日付の指摘は(先に)書け。(後に)回すと隠したように見える」。
「審査官を責めないでください」と彼は言った。「訳の(問題)だと書くだけでいい。(屈辱)だと取られる一行を入れた(瞬間)に、向こうは読むのをやめます」。私は形容詞を四つ(削った)。
(反論書)は十四頁になった。原語と訳の(対照)を最初に置き、日付の表を(二番目)に、実験の二枚を(最後)に添える。(皮肉)は一行も入れなかった。
六週間後、審査官から次の通知が来た。第四の文献は(引用)から外れ、第二の文献も「差し込み口の検出と解される」とある。それ(にもかかわらず)、(拒絶)の理由は一つ残った。
残る一つは、(請求の範囲)の書き方だ。(時間)の(幅)の下限を数字で書くよう(求められている)。曾沢さんは三年分の実験から、迷わず一つの数字を(決めた)。
「ここより短いと、装置が(勝手に)止まります」と彼は言った。「(絶えず)試した数字です」。私はその一行を請求の範囲に(書き入れ)、(すぐに)提出した。
四か月後、特許の(査定)が届いた。幸運な(巡り合わせ)だったとは思わない。桐畑さんは(報告書)に起草者として私の名前を(入れ)、来年の(別の)出願も私に任せると言った。
曾沢さんからは、短い(書き込み)の入った(封書)が届いた。(実験)の続きの表が二枚入っている。「原語を読む人がいるなら、こちらも(数字)を増やします」とあった。(刺激された)、とも書いてある。
私は浮かれなかった。見つけたのは(訳)の(食い違い)と日付の誤りで、(装置)を作ったのは私ではない。(満足そうな)顔をするほどの話ではない。
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(事務所)の壁に、(原語)と(抄録)の訳の対照表を貼り直した。原語を上に、訳を下に並べてある。新しく入った人が、これを読むところから始める。
その人は(電子)の装置が(初めて)で、抄録を読む速さに自信があるらしい。私は(机)を一つ横に(移動させて)、(隣)に座らせた。問い合わせの電話も一緒に取り、原語の頁をめくらせる。
「抄録では駄目なんですか」と聞かれた。「駄目です」と私は(答えた)。抄録は原語の(要約)で、要約のときに落ちた一語が、三年分の仕事を(止める)。
私は(今も)会議室の端に座る。ただ今は、反論の筋を読み上げるのが私で、桐畑さんが横で日付を(確かめている)。